海外のモバイル送金解説

モバイル送金が破壊するカード決済 

日本でもモバイルで個人間送金できるサービスが徐々に増えており、注目度は高まっているが、海外ではVenmoやSquare Cash、Zelleなどのモバイル送金サービスが登場している。そこで、NCB Lab.の小林均氏に、欧米を中心としたモバイル送金サービスの動向について紹介してもらった。 

NCB Lab. 小林均 

①モバイル送金の隆盛

 

現在、欧米を中心として、モバイルで個人間送金ができるサービスが台頭している。多くは銀行口座と個人の携帯電話番号やソーシャルメディアのアカウントを紐付けて、銀行口座番号を使わずに宛先へ送金ができるというモデルだ。

 

割り勘の食事代の支払いなど、現金や小切手を使っていた場面において、モバイルで簡単に送金しあうサービスが消費者にフィットし、若年層を中心に急激に利用が伸びている。調査会社のForrester Researchはこのような個人間送金サービス市場の総取扱高は2019年までに170億ドルに達すると試算している。

 

世界の送金事業者は近年、あることに気づきはじめた。それは、送金は個人間だけに閉じたものである必要はないということ。たとえば街の喫茶店でコーヒー代を支払う際に個人が店舗に送金すれば、それは決済になる。個人のスマートフォンを決済端末へQRコードやNFCでかざす手間がなく、スマートフォンやタブレット間で取引が完結する。いま、送金モデルがモバイル決済の景色を変えようとしているのだ。

 

② モバイル送金の代表格Venmo

 

現在、米国の大学生の間では、“Just Venmo Me.”という会話がかわされる。これは「モバイル送金サービスVenmo(ベンモ)でお金を返してくれ」という意味の言葉である。このような造語ができるほど、Venmoは大学生に広く浸透しており、友人との割り勘の食事代や、集金リクエストに今や欠かせないツールになっている。

 

Venmoはペンシルバニア大学のルームメイトだったイスマイル氏とコーティナ氏が2009年に設立。卒業後、彼らは別々の会社へ就職するも、互いに退職して一緒に起業することを決意。当初はバンドからファンへMP3を直接配信できる音楽アプリ制作会社を計画していた。ある日イスマイル氏が家に財布を忘れ、コーティナ氏にお金を借りた後、返済のため銀行の小切手をコーティナ氏宛てに書いた際、「小切手を書くのも銀行へ現金化しに行くのも面倒なので、これをアプリでできたら良いのでは?」というアイデアを思いつき、当初の予定を変更してVenmoを設立するに至った。

 

そのVenmoは2012年、BrainTree(ブレインツリー)に2.620万ドルで買収された。BrainTreeは2007年創業のAPI型の決済ゲートウェイ。数行のソースコードをサイトに埋めこむだけで、オンライン決済が可能になるというサービスを提供していた。導入企業の多くがスタートアップ。いまでこそ有名になったシェアリングビジネスのUber(ウーバー)やAirbnb(エアーBアンドB)などが顧客である。

 

顧客の成長とともに名を挙げてきたBrainTreeは2013年にPayPal(ペイパル)に買収される。BrainTree買収の際、おまけでついてきたVenmoは、当初PayPalとバッティングすると考えられていた。PayPalはE-mailで送金するサービスで成長し、モバイルに進出した。Venmoは携帯電話番号やFacebook(フェイスブック)で送金するモバイルサービスを提供している。両者が別会社であったなら、強烈にバッティングしていたに違いない。

 

PayPalもBrainTreeもVenmoのブランドを残して運営。ミレニアルズからの支持率を考慮してのものだと思われる。

 

Venmoの2013年の取扱高は5億ドルだったが、2014年には24億ドル、2015年には75億ドル(約8,000億円)に飛躍している。2016年第1四半期は32億ドル、第2四半期は40億ドル、第3四半期は49億ドルと、第3四半期時点ですでに前年を上回っている。PayPalやGoogle、Squareといった名だたる企業が個人間送金サービスに参入するなかで、1人勝ちに近い状況で取扱高を伸ばしてきた。なぜここまでVenmoが実績を伸ばすことができたのか、何が顧客へ受け入れられているのかを見てみよう。

③送金はコミュニケーションの1つ 

 

Venmoの登録は簡単。Venmoアプリを開いたらFacebookアカウントIDと連携し、氏名、携帯電話番号、社会保障番号の下四桁を入力する。さらに銀行口座もしくはクレジットカードを登録すれば完了する。送金は基本無料だが、クレジットカードからの送金の場合、送金額の3%を送金者から徴収する。

 

Venmoで送金したお金は相手側のプリペイド口座に着金、そのお金を引き出す際は、アプリから出金申請する。Venmoは、登録、送受金、出金をモバイルアプリでできるよう、手軽さを重視した設計とした。

 

下記のアプリ画面は、代表者が支払った食事代の立替分を友達に送金リクエストしている画面である。代表者は友人たちへ、ディナー代として1人17.38ドルを請求している。

Venmoではお金のやりとりがタイムラインで表示される。例えばアマンダは、自分以外の3人がちゃんと代表者にディナー代を支払っていることがわかり、早く払わなくてはと焦ることとなる。Venmo内のグループチャットでは誰と誰が食事代を割り勘したかなどの情報を参加者が閲覧でき、グループ活動履歴に相当する情報が記録されていく。

 

このスマーフォンアプリのUI/UXから、Venmoは個人間のコミュニケーションを重視した設計をしていることが伝わってくる。利用者が送金や割り勘をする際は、食事やエンターテインメントなど利用者同士のコミュニケーションが必ず発生していることに着目し、コミュニケーションツールとしてVenmoを発展させてきた。Venmoユーザーは週に4,5回アプリを起動するものの、送金を利用せず、タイムラインをただ眺めるだけに使っているケースがよくあると言われる。

 

Venmoはユーザーインターフェースに加え、マーケティングにおいてもミレニアルズを囲い込む施策を徹底的に行っている。

 

2012年、Venmoはプリストン大学のハッカソンイベントで、技術的な話を交えて、アプリのデモを実演した。イベントの最後には、Venmoの社員がイベントへ参加した大学生へ2ドルをプレゼント。受け取るためにはVenmoのアカウント開設が必要なため、Webリテラシーが高く、好奇心旺盛な大学生から顧客となっていった。彼らがインフルエンサーとなり、研究室、クラブ単位で顧客が広まった。大学生は活動費や飲食代の徴収など、割り勘し、送金し合うケースが多い。

 

そのほか友人紹介によってお金を獲得できるゲームキャンペーンを開催したり、格闘技など有料番組の利用料を割り勘できるようにしたほか、若年層に人気のユーチューバーをCMに起用したりと、ミレニアルズに響くマーケティングを徹底的に実施した。もともと顧客基盤を持っていたわけではないVenmoは地道なプロモーション活動によって拡大していった。

 

④送金と決済の融合でマネタイズ

 

そうして顧客を獲得したVenmoであるが、個人間送金サービスは基本無料である。マネタイズのために施策を打った。ペイウィズVenmo(PaywithVenmo)というサービスだ。

 

これはVenmoアプリを使って加盟店に送金ができるというもの。つまりVenmoで決済ができてしまうというものだ。2016年初頭にテストを開始。Venmoの特定ユーザーにサービスを提供していたが、このほどVenmo利用者全員にサービスを開放した。

 

加盟店は数百万人のVenmo利用者とソーシャルに接続することができる。Venmo利用者のアプリ利用頻度は高く、決済チャットで加盟店名が話題にのぼれば、人気店になれる可能性がある。

 

スタート時の加盟店はMunchery、Gametime、Priv、Poshmark、Hop Market、Wish、Parking Panda、Dolly、Urgentli、Boxed、Delivery.comである。

 

これらの加盟店では、単に支払いができるだけでなく、送金サービスのように割り勘が簡単にできる。それがVenmoの強みとなっている。

 

加盟店からは数パーセントの決済手数料をVenmoが徴収する。個人間送金サービスで獲得した顧客基盤を活用し、マネタイズへと動き出している。この動向は他の送金サービスにも見られる。Venmoに先行する形で始めているのがフィンテックの重鎮、Squareだ。

 

⑤Square Cashが先行してビジネスアカウントでマネタイズ

 

mPOS(モバイルPOS)のパイオニアであるSquare(スクエア)は、個人向けサービスとして2013年10月からSquareCashの提供を開始した。SquareCashアプリはスマートフォンの連絡先機能と同期され、メールアドレスや電話番号を送金の宛先にできるほか、Bluetoothによって自分の周辺にいるSquareCashユーザーを指定することができる。 Squareも個人間送金を無料で提供しており、どのようにマネタイズするかがかねてから注目の的であった。

 

スタートから約1年半が経過した2015年3月、SquareはSquareCashのビジネスアカウント発行を開始すると発表した。SquareCashを使って、個人がビジネスに支払いができるというモデルである。

 

個人間送金を無料で提供して100万人以上のユーザーを獲得したのは、カード決済に変わる新しい決済手段としてSquareCashを活用する布石であった。ビジネスアカウント発表当初は取引1件につき1.5%の手数料をビジネスから徴収するという名目であったが、2015年9月までに1.9%に変更、さらに2016年4月からは2.75%に改めている。これはSquareのカードリーダーで決済を受付ける際と同様の料率だ。

 

すると「ビジネスでも個人アカウントとして決済を受け付けてしまえば良いのでは?」という疑問が浮かぶが、送金受付額に上限を設定するなど、アカウントごとに制限を設けることでSquareはこの問題をクリアしている。現在はクレジットカードを原資とした送金にも対応しているが、この場合、送金者から送金額の3%を手数料として徴収する形にしている。基本的には銀行口座と紐づいたデビットカードを使って送金するモデルがメインだ。

⑥キャッシュタグで送金決済 

 

Squareはまた、ビジネスアカウントの開設に伴い$Cashtag(キャッシュタグ)の発行も開始した。これは送金を受け付ける特設サイトのURLである。ビジネスとして広く決済を受け付ける際、その宛先としてメールアドレスや電話番号ではなくURLを告知すればいい。ソーシャルネットワークやホームページなどに記載するほか、路上ミュージシャンであれば看板にキャッシュタグを掲載すれば投げ銭をオンラインで受け付けることも可能だ。慈善団体のREDや、Wikipediaを運営するWikimedia Foundationはキャッシュタグによる寄付を受け付けている。Squareは今後も、SquareCashを中心とした送金決済サービスの整備を進めていくという。

 

⑦米銀行がP2P送金でZelleに相乗り

 

VenmoやSquare Cashのような動きに敏感に反応するのが銀行である。第三者によって個人間送金が無料で提供されると、銀行間送金における手数料収入が打撃を受ける。さらに決済領域にまで進出され、銀行が発行するカードに置き替えられたらひとたまりもない。

 

そこで米国銀行各行は共同でモバイル送金サービスを統一で提供するに至った。そのサービス主体はEarlyWarning(アーリーウォーニング)である。2016年夏、Early Warningはモバイル送金決済のZelle(ゼル)を2017年初頭にローンチすると発表した。銀行口座をベースに、携帯電話番号やE-mailを宛先として送受金できるサービスである。

 

Early WarningのスタッフによればZelleという名称は女性の名前らしい。Elegant(優雅)、Speed(スピード)、Agility(機敏)という意味を込めている。同社は米国金融機関向けにリアルタイム送金ネットワークclearXchange(クリアエクスチェンジ:cXc)を提供している。cXcに参加した銀行は自行口座間の取引だけでなく他行口座へのリアルタイム送金も提供可能となる。これまでバンク・オブ・アメリカやチェイスなどの参加銀行がcXc上でそれぞれ独自にモバイル送金決済サービスを提供していたが、それがサービス認知拡大の弊害となっていた。チェイスのリアルタイム送金QuickPayの利用者はウェルズファーゴ口座を使っている顧客に送金できることをわかっていないことが多い。そこで今回Zelleというブランドを参加銀行すべてが使うことにし、他行口座利用者にも送金決済できることをわかりやすくした。

 

各行が共同で提供することとなったのにはブランディングのほか、コスト面でも理由がありそうだ。VenmoやSquareに打ち勝つべく、個人間送金の無料化に向けて手を取り合い、送金サービスのコストを参加銀行で按分する方針にうってでたのだ。競合関係にあった銀行同士も共通の敵を前に呉越同舟、1ブランドをシェアするというビジョンが実現した。しかもZelleの領域は個人間送金にとどまらない。保険や税金還付といった企業・政府から個人への支払い、クレジットやローンの返済など、個人から企業への請求払いなども可能になる。

 

Early WarningはVisa、Mastercardとも提携。デビットカードアカウントを使った送受金を可能にし、顧客の利用ハードルを下げた。Zelleは大手行20数行でスタート。地銀やサードパーティの参加を呼びかけている。

⑧世界で広がるモバイル送金/決済が日本でも加速

 

VenmoやSquare Cash、そしてZelleなど、基本は無料で提供しているモバイル送金サービスがマネタイズをはかるために店舗への送金による決済機能を搭載するケースが増えている。今回紹介しきれなかったが、英国のPaym(ペイエム)やアフリカ圏で広がるMPESA(エムペサ)、スウェーデンのSwish(スイッシュ)といった同様のサービスも存在しており、モバイルで送金と決済が完結するサービスは世界中で広まりつつある。

 

こうしたプレイヤーの特徴は独自に加盟店開拓をしている点である。既存のカードネットワークを必要とせず、送金サービスで獲得した顧客基盤を武器に、自ら加盟店開拓を実施する。また実店舗においても、モバイルによる決済をベースとするため、カード発行が不要になるほか、決済端末など既存インフラも必要としない。

 

彼らのようなプレイヤーが増えれば、既存決済サービスプレイヤーにとっては脅威になりうるだろう。

 

日本でもモバイルによる送金/決済を実現したサービスはいくつか存在する。なかでもLINE Payの知名度は高いだろう。2015年に発表されたLINE Payは、LINEアカウントと紐づいたプリペイド口座によって、送金と決済ができるサービスである。

 

LINE PayではJCBブランド付きプリペイドカードを提供しているが、QRコードを活用した実店舗モバイル決済も展開している。リクルートライフスタイルと提携し、Airレジ加盟店で利用できるほか、ローソン全店舗での受け付けも始まった。LINE Payはアカウントへのプリペイドチャージもコンビニ店頭もしくは銀行口座で行うので、カード会社のネットワークを通る必要がない仕組みとなっている。

 

こうしたサービスたちが、Venmoのような優れたUI/UXの実現などにより顧客を獲得していけば、日本でもこれまでの決済ビジネスが変化する可能性は十分にある。

 

国際ブランドをはじめとした既存プレイヤーたちは、彼らに協業するのか、それとも競合とみなして対策を講じるのであろうか。国内決済業界でどのように波紋が広がるか、今年の注目すべき動向である。

注目サービス

GOLD

大日本印刷株式会社

決済情報とPOS情報を活用して販促を支援する「DNPマルチペイメントサービス」
DNPが蓄積してきたノウハウを集約し、キャッシュレス化とCRMをサポート 

富士通株式会社

「リアルタイム口座振替サービス」機能を備えた「CARDNET COUPLER」
双方向対応する唯一のパッケージでFinTechをサポート

NTTデータ株式会社

キャッシュレス決済に関わるインバウンド対応や業務の効率化をサポート
決済から売上管理まで対応するクラウド型総合決済プラットフォーム「CAFIS Arch」

大日本印刷株式会社(静岡鉄道 事例紹介)

電子マネー「ルルカ」で「DNPマルチペイメントサービス」が採用
移動から買い物まで1枚でサポートするカードとして地域での展開を支援

株式会社NTTデータ

次世代型ポイント・顧客管理ソリューション「CAFIS Explorer」
複数ポイント制度を並列しつつ顧客を一元管理し、LTVの最大化を支援

富士通株式会社

オンプレ型からサービス利用型のクラウドまでPOSA全般の導入をサポートする「やごやさん」
中国の決済サービス「WeChat Payment」も高品質にサポート 

SILVER

Mastercard

priceless.japan

株式会社フライトシステム コンサルティング

iPhoneやiPadがクレジットカード決済端末になる「ペイメント・マイスター」
Apple Pay等に対応した「Incredist Premium」は北米、欧州、アジアで展開

セイコーソリューションズ株式会社

「CREPiCOセンター」でカード情報の非保持化を実現するP2PEソリューションを提供
アプリケーション、端末、センターの三位一体で加盟店の安心・安全な決済をサポート

ビザ・ワールドワイド

Visaのブランドプリペイド、非接触IC決済のさらなる浸透を
伝統とイノベーションを両輪に日本のキャッシュレス化を強力に推進

Ingenico Japan

世界No.1 決済端末ベンダーとして2020年に日本でもトップシェアを目指
Ingenico Japanとして国内市場へ本格的に参入

BRONZE

日本経済新聞社

「リテールテックJAPAN」「SECURITY SHOW」出展申し込み受付開始

ソニーペイメントサービス株式会社

クレジットカードのセキュリティ対策はお済みですか?

GMOペイメントゲートウェイ株式会社

決済で未来をつなぐ
~決済を軸に新しい価値を創造し、世の中を豊かにする会社~